開業届を出さないとどうなるの?
古物商をはじめる場合に開業届は必要なのでしょうか?
また、中には古物商を始めているけど開業届をまだ出していないという方もいるかもしれません。
そこで、この記事では「古物商に開業届の提出は必要なのか」や「開業届を出さなかったらどうなるのか」、「いつのタイミングで開業届を提出すればいいのか」などについて解説します。
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開業届を出していなくても古物商の許可は取れる
まず、大前提として開業届を出していないからといって、古物商の許可が取れないという事はありません。
なぜなら、古物商の許可を取得する要件に開業届に関することは一切設けられていないからです。
つまり、開業届を提出していなくても、古物商の許可を取得することができるというわけです。
開業届の提出時期は古物商の取得後がベスト
これから個人で古物商を取得しようと思って弊所に依頼頂く方の中には「開業届をまだしていないけど大丈夫ですか?」という質問を頂きます。
ただ、これから古物商で事業をはいめるのであれば、全く問題ありません。
むしろ、古物商の許可を取得して事業を開始するタイミングで開業届を提出するのが一般的です。
また、開業届に関しては開業後1カ月が提出期限ですが、提出期限を過ぎて提出したからといって罰則があるわけではありません。
なので、もし既に古物商を開業しているけど、まだ、開業届を出せていない場合には速やかに開業届を提出することをおすすめします。
古物商をはじめるなら開業届の提出は原則必要
古物商の許可を取得してから開業届を提出すれば良いとい説明しましたが、そもそも開業届は提出しなければいけないのでしょうか?
まず、結論から先にいうと古物商をはじめる場合には、原則として開業届の提出は必要です。
というのも、開業から1ヶ月以内に税務署に届出をしなければならないと法律で定められているからです。
ただ、これは古物商に限らず、そもそも何か個人で事業を行う場合に開業届の提出が必要となります。
開業届とは?
開業届とは、個人が事業を開始したことを税務署に届出る書類のことです。
なぜ、個人で事業をはじめる場合に開業届を提出しなければならないかというと、税務署が個人事業の活動を把握し、適切に税金を徴収する為です。
例えば、個人で事業をはじめた場合、どこで誰が事業をしているのか税務署が把握することは難しいです。
となると、事業活動の実態を税務署が把握できず、適切に税金が徴収なくなってしまう可能性があり、適切に税金を納めている人との公平性が損なわれてしまいかねません。
その為、開業届の提出を義務づけているわけですね。
開業届を出さなくても罰則はない
ただ、驚くことに法律で開業届の提出を定められているにも関わらず、提出しなかったとしても特に通知や罰則はありません。
つまり、開業届を出さなかったとしてもペナルティーはないわけです。
なぜ、開業届を出さないことにペナルティーがないのでしょうか?
その理由は、開業届を出さなかったとしても、事業で稼いだ所得に対して納税義務は同じく発生するからです。
例えば、開業届提出しても、開業届を出さずに事業をはじめても事業で得た所得に対して税金を納めなければならないことに変わりはありません。
つまり、開業届を提出していないからといって税金を払わなくていいわけではないので、もし税金を払わなかった場合には脱税として罰せられてしまいます。
また、本来、開業届は税務署が個人事業の活動を把握し、適切に税金を徴収するために必要とされていますが、税務署は様々な手段で収入を把握できるため、税金の徴収に大きな影響ないのがないことも罰則が設けられていない理由の1つです。
開業届を提出する際に必要なもの
ここまででも解説したように、古物商の許可を取得して古物営業を行うのであれば、開業届は提出した方がいいです。
では、開業届はどのように提出すればいいかというと、以下の3つのものを準備すれば大丈夫です。
- 個人事業の開業・廃業等届出書
- 所得税の青色申告承認申請書
- マイナンバーカード(本人確認書類+マイナンバーが確認できる書類)
また、開業届とは少し異なりますが、合わせて「所得税の青色申告承認申請書」を提出することをおすすめします。
というのも、開業届を提出する最大のメリットは青色申告で確定申告をすることができ、税金の負担を軽減できるようになる点だからです。
ただ、青色申告は開業届を提出しただけではできず、「所得税の青色申告承認申請書」を提出することが求められるため、開業届と合わせて提出した方が良いというわけです。
個人事業の開業届出書
まずは個人事業の開業・廃業等届出書を作成する必要があるのですが、開業届の作成は簡単なので自分でも作成が可能です。
因みに、個人事業の開業・廃業等届出書の書式は国税庁のHPからダウンロードできます。
ポイント
①納税地を管轄する税務署名を記載します。
②開業届の提出日を記載します。
③上の段に営業所の住所を記入します。営業所と自宅住所が異なる場合のみ、下の段に自宅住所等を記載します。
④名前を記入します。
⑤生年月日を記載します。
⑥マイナンバーを記載します。
⑦職業を小売業又は卸売業と記載します。
⑧屋号(店舗名)を記載します。
⑨「開業」と「新設」を選択し住所と氏名を記入します。
⑩「事業所得」を選択します。
⑪開業日を記入します。
⑫事業の概要に「中古品の買取及び販売」など、事業の具体的な説明を記載します。
⑬従業員等がいない場合には0と記載します。
所得税の青色申告承認申請書
所得税の青色申告承認申請書の書式についても国税庁のHPからダウンロードできます。
ポイント
①納税地を管轄する税務署名を記載します。
②開業届の提出日を記載します。
③上の段に営業所の住所を記入します。営業所と自宅住所が異なる場合のみ、下の段に自宅住所等を記載します。
④名前を記入します。
⑤生年月日を記載します。
⑥職業を小売業又は卸売業と記載します。
⑦屋号(店舗名)を記載します。
⑧青色申告の適用を開始したい年を記入します。
⑨屋号(店舗名)と住所を記入します。
⑩「事業所得」を選択します。
⑪「無」を選択します。
⑫開業日を記入します。
⑬「無」を選択します。
⑬青色申告で55・65万円控除を受けるには「複式簿記」を選択します。
⑭55・65万円控除を受けるには、「総勘定元帳」「仕訳帳」「現金出納帳」「売掛帳」「買掛帳」「経費帳」「固定資産台帳」「預金出納帳」を選択します。
因みに、一般的な確定申告ソフトを利用すると、基本的には自動で⑭で選択した帳簿を作成してくれるので、これから開業する場合に確定申告ソフトを導入することをおすすめします。
マイナンバーカード
開業届には本人確認書類とマイナンバーがわかるものが必要となる為、マイナンバーカードを持って行くと便利です。
また、もしマイナンバーカードを持っていない場合には運転免許証などの本人確認書類とマイナンバーが確認できるものを持っていく必要があります。
因みに、開業届は郵送でも提出することが出きるのですが、郵送の場合にはマイナンバーカードのコピーを添付して郵送するようにしてください。
古物商で開業届を提出するメリット
古物商を開業するにあたり、開業届を提出することで以下のようなメリットがあります。
開業届提出のメリット
- 青色申告で最大65万円の控除が受けられる
- 屋号の名義で銀行口座を開設できる
- 個人事業主としての証明になる
- 小規模企業共済に加入できる
青色申告で最大65万円の控除が受けられる
開業届を提出する最大のメリットは「青色申告」という方法で確定申告ができるようになることです。
青色申告を使うと、少し難しいルール(複式簿記を使った帳簿付けやe-Taxでの申請など)を守る必要がありますが、最大で65万円の控除(税金が安くなること)が受けられます。
さらに、家族に支払った給料を経費にしたり、赤字を3年間繰り越したり、30万円未満の道具を一気に経費として計上できたりと、色々なメリットがあります。
因みに、青色申告をするには、税務署に事業を始めてから2か月以内に「青色申告承認申請書」を出さなければいけません。
ですので、先ほど解説した通り、古物商の許可を取得した後に開業届を提出するタイミングで一緒に青色申告承認申請書を提出しましょう。
また、「複式簿記」というのが難しいと感じる人は、「マネーフォワード」や「弥生会計オンライン」などの専用ソフトを使うと、簿記の知識がなくても自動で帳簿を作ってくれるので安心です。
屋号の名義で銀行口座を開設できる
開業届に屋号(お店や会社の名前)を書いて出すと、その屋号を使って仕事をすることができます。
屋号があると、その名前で銀行口座を作ることができ、仕事のお金と自分のお金をわけて管理しやすくなります。
これにより、確定申告や経費の処理、資金の管理がスムーズになります。
また、屋号付きの口座を持つことで、取引先やお客さんから「ちゃんとした事業をしている」という信頼が得られることもあります。
個人事業主としての証明になる
開業届を提出すことで「個人事業主」として仕事をしていることを証明する書類として使用できます。
例えば、お店やオフィスを借りるときや、銀行からお金を借りたいときに、この開業届のコピーを求められることがあります。
また、個人事業主が子どもを保育園に入れるときに、働いていることを証明するために開業届が必要になることもあります。
その他にも開業届を出しておくと、事業者向けの助成金や補助金など、仕事をサポートしてくれる制度を利用できることがあります。
特に、新しい事業を始める人向けの支援プログラムに申し込むときに、開業届を提出しなければならないことが多いです。
小規模企業共済に加入できる
開業届を出すと得られるメリットの一つに、「小規模企業共済」に加入できることがあります。
小規模企業共済は、個人事業主や小さな会社の経営者が入ることができる退職金を積み立てるための制度です。
個人事業主には会社員のような退職金がないため、小規模企業共済に加入しておけば、退職後の生活を安心して迎えることができます。
さらに、毎月の掛金は全額税金の計算から引くことができるので、税金の負担を減らすことにもつながります。
個人事業主が小規模企業共済に加入する際には、確定申告書の控えが必要ですが、事業を始めたばかりでまだ確定申告をしていない場合は、開業届の控えを提出する必要があります。
古物商の開業届を提出するデメリット
一方で、古物商を開業するにあたり開業届を提出することで以下のようなデメリットがあります。
開業届提出のデメリット
- 健康保険の被扶養者から外れることがある
- 失業手当が受給できなくなることがある
健康保険の被扶養者から外れることがある
家族や配偶者が入っている健康保険の「扶養」に入っている場合、開業届を提出すると扶養から外れてしまうことがあります。
健康保険の扶養に入るための条件は、加入する保険によって異なり「個人事業主は扶養に入れない」と言われる場合もあれば、「収入が一定の金額を超えると扶養から外れる」と決まっているところもあります。
そして、もし扶養から外れると、自分で健康保険を辞めたり新たに入ったりする手続きをしなければなりません。
なので、もし扶養に入っている方は、家族や配偶者の会社が加入している健康保険の条件を確認することをおすすめします。
失業手当が受給できなくなる可能性がある
開業届を提出すると失業保険を受給できなくなる可能性があります。
というもの、失業保険の受給要件は以下の3つとなっており、開業届を提出することで個人事業主となり、失業している状態に該当しない為です。
- 就職しようとする積極的な意思があること
- いつでも就職できる能力があること
- 失業状態であること
ですので、もし個人事業をはじめるか、再就職するかで悩んでいる場合、開業届を提出するタイミングには気を付けた方が良いです。
古物商の開業届に関するよくある質問
古物商の開業届を提出することの税金を払わないといけなくなるの?
古物商の開業届に関する最も多い誤解が「開業届を提出すると税金を払わないといけなくなる」というものです。
しかし、開業届の提出の有無で納税義務が発生するわけではありません。
納税の義務が発生するのは給与所得以外の所得が20万円を超えた場合です。
つまり、開業届を「提出している」、「提出していない」に関わらず、古物商の事業所得が年間20万円を超えた場合に確定申告をしなければいけなくなり、その結果、納税が必要となるわけです。
副業でも古物商の開業届は出せるの?
最近ではスマホで簡単にネット売買ができるため、隙間時間を活用して副業で古物商をする方も多いです。
では、副業の場合でも開業届を提出することができるのでしょうか?
結論としては、会社員でも問題なく開業届を提出することができます。
ただし、注意点としては確定申告の際に自分で税金を納める手続きをしないと、税金の関係上、会社に副業していることがバレてしまいます。
ですんもで、副業禁止の会社で副業をする場合には、事前に税金関係のことをしっかりと調べてからはじめることをおすすめします。
古物商の開業届を提出することで会社に副業がバレる?
古物商の開業届を提出しただけでは、会社に副業がバレることはありません。
というもの、開業届は税務署に提出するのですが、税務署から勤め先の会社に開業届に関する連絡などはされないからです。
では、どのようにして会社に副業がバレてしまうのかというと、住民税の支払いでバレてしまうケースが多いです。
本来、会社員の場合、住民税は会社が税務署に支払っているわけですが、副業で収入が増えた結果、会社が支払う住民税が増えて強います。
となると、会社としては特に昇給しているわけではないのに、支払わなければいけない住民税が増えているため、給料とは別に収入があるのではと気づかれてしまうわけです。
ただし、これにも対策があって、古物商で稼いだ分については自分で納税する手続きをすることで、会社にバレずに副業することが可能になります。
まとめ
この記事のまとめ
- 古物商は開業届を出していなくても取れる
- 古物商を開業する場合には開業届を提出した方がいい
- 開業届は提出しなくても遅れて提出しても罰則はない
- 開業届を提出するとメリット・デメリットがある
長島 雄太
NAGASHIMA行政書士事務所